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ニチジョウ。

ニチジョウ。

パラダイス・サーティー


乃南アサ著『パラダイス・サーティー』


読みました。おもしろかったです。
物語は主人公の栗子が嫌なできごとばかりが重なる、29歳の誕生日から始まっていく。
独身三十路一歩手前。
両親の不仲などの原因から実家をでて、友人の菜摘の家に転がり込むものの、そこからは意外な人生が待ち受けていた、というようなお話。(たぶん)

29歳という年の物語に、最初は不安を感じながら読んでいました。
だって私、まだ15歳なんです。読んでもおもしろいかどうかわからなかったのです。
でも結果は全然違いました。
こんな未熟なガキでもおもしろいと感じられるような文章、物語展開。それに、どこか幼い栗子が29という年齢には感じられなくて、妙に親近感を覚えたせいもあるでしょう。
対する菜摘は、栗子と違って、だいぶ大人のように見えます。けれど実際は不器用で、どちらも29という年齢で想像していたよりも、不器用な子どもの影を残していて、とても若かったのです。
読んでいてすぐにハマりました。交互に栗子と菜摘とで主人公視点がいれかわり、ふたりが考えていることがもろに伝わります。また、ふたりの、噛みあわないだろうお互いの生活が、その書き方によって見えてきます。
こうも違う人間をふたりも書けるなんて、しかも、各々の性格をくっきりとだせるなんて、なんてすごいだろう。
物語は何故か80年代くらいのティーンズ小説を思い浮かべそうな雰囲気をしているのに、そういう人間的な部分がひどく現実的。
ところどころに散らされた乃南アサ独特の表現にも思わず舌をまきます。
読んでいて飽きませんでした。
最初から中盤、最後まで、決して飽きさせない無駄のないお話。先が見えるようで、読んでいるとやはりというか、その予想は裏切られる。
やっぱりプロだ、さすがだ、と思いました。
何より、イチバン最後の最後で落とされたのにはびっくりしました。
終わりという感じがしないのに、今まで読んだどの小説の終わりよりも終わりらしい。
長い人生の中の日常の一部をぶったぎって、そのまま見せたらこんな感じ。
終わりらしくない終わりが、イチバン日常にふさわしいのかと思い考えさせられました。


ここから先は結構ネタバレ。



読んでいて思ったのは、高校生も29歳も、根本的に変わらない部分ってあるんだなぁと感じました。
実はオナベな菜摘。だけどオナベとかゲイとか、世に出回っているカタカナ言葉よりもっと重い、そして誰もが感じるような気持ちが繊細に書かれていてびっくりしました。
同性愛者故に孤独で、不器用で、かっこつけしい。
誰でもかっこつけてしまうところはあると思います。ただ菜摘にはその部分が大きくて、ヒトよりも生きにくい少数派にいるせいでより孤独になる。その、オトコにはできないもろいかっこよさと言ったら!
その辺の格好よさがティーンズっぽかったんでしょうかね。
逆に栗子は女の子らしく、でも女性らしいというわけではない。
そんな栗子の切ないひとめぼれの恋が、読者の胸をきゅっと締め付ける。
いい薬味だな、と思いました。映画などで言うならば効果音と言うポジションに似ている気がします。

私がこの本を読んで最終的に感じ取ったのは、同類では親友にはなりえないんだろうな、という思いです。正確に言えばこの思いは再確認の思いなんですが。
反対の場所に位置していて、絶えずちいさな距離を置いていて、そこから客観的にも主観的にも相手をみて、理解できる。何より、理解しきれないところが同情を誘わなくて、最適な距離なのかなって思います。
男女間の愛とかそんな見えにくくてぼかしやすい感情より、友情の方がよっぽどストレートでわかりやすい!
そんなことを考えてしまいました。



『複雑な人間関係の中で、哀しく切なく、かっこいい。読み終わった後に残るのは、生きること、進むことへの、希望』
そんな感じでした。


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